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2007.09/01(Sat)

Starmine Love Romance 2 


【More・・・】


 淡い光を投げかける提灯が道なりにいくつもぶら下がっている。
 その下では色とりどりの装飾を施した夜店がこれでもかと連なり、沿道の石畳の上は既に人の群れでごった返しになっていた。 
 耳を澄ますと遠くに聞こえる祭囃子に心弾ませ、これから過ごす夏の一時に誰もが心躍らせた。
 毎年恒例の海鳴市夏祭りは今夜も賑やかな喧騒で溢れかえりそうだ。

「なんだかこれって思ったより動きにくいんだね」
「大丈夫だよ、すぐに慣れるから」

 手を引かれながらヨタヨタおぼつかない足取りで下駄を鳴らす少女は今は目の前に広がる光景より足元を見るのに必死な様子。
 いつもは結んだ金髪も今夜だけは好きなように遊ばせて彼女のおめかし振りが窺えた。

「わたしも毎年一回だけだもん。フェイトちゃんならあっという間だよ」
「そ、そうかな? あっ――!」
 
 コツン、と不運にも石畳の突っかかりに下駄を引っ掛けてしまった。
 いつもなら自慢の反射神経でなんなく危機を乗り越えられるフェイトも今回ばかりはこの身に纏う初めてに半ば平衡感覚を失っていたり。
 結果、鮮やかな景色は傾いて一瞬の無重力にフェイトは捕われる。

「フェイトちゃん!!」

 けれど彼女を迎えたのは硬い石の感触ではなく柔らかな人肌の感触。ふわっと広がる石鹸の香りに目を細める。

「あはは……やっぱりまだ危なそうだね」
「う、うん……そうみたいだね」

 なのはの胸に顔を預けながら横目に自分と同じ格好の大人子供たちを見る。皆それぞれに夜店を見たり、見知らぬ食べ物を頬張っていたり、足元なんて誰一人見ていなかった。
 そうだ、一刻も早く自分もあんな軽やかに歩けるようにならないといけない。今夜の主役はなのはだけど自分はその中にはいない。
 
「ほうら! こんな道の真ん中でイチャつかないの!」

 呆れた声が背中にぶつかった。
 
「あっ、みんな!」
 
 なのはが声を弾ませフェイトが振り向けば、

「しっかし見違えたわね……」
「二人とも綺麗だね」
「あかんわ……わたしが霞んできそうやないか」

 皆それぞれにお祭り専用のおめかしで着飾った三人が揃っていた。
 
「そ、そうかな……初めて着たから自分じゃ良くわからないけど」

 不安そうに裾を持ちながら両手を広げて自分の格好をもう一度確かめてみる。布一枚を羽織って帯一本で留めるなんて服はミッドチルダに当然ながら存在しない。
 むしろ最初これが衣服の一種だとはにわかに信じられなかったくらいだ。
 
「くぅ~、初々しいなぁほんまに」
「悔しいけど今年の浴衣美人はフェイトで決まりね」
「もう、二人だって十分綺麗だよ」

 そう夏といえば、祭りといえば、浴衣だ。
 四者四様にそれぞれ色や柄は違えどどれも浴衣であるのは間違いない。
 なのはは薄桃色の生地に桜の花びらを散らせ、フェイトは黒の上に金色の蝶が舞っている。
 アリサは夕顔で飾られた茜色の浴衣で、すずかは紫苑に花火を模った模様をあしらい、はやては青空に桔梗の花を浮かべていた。

「けど意外にこの帯って苦しいもんやなぁ」

 はやてが苦しそうに息を吐きながら胸の下に巻きついている太い帯を二、三度手で叩いてみせる。
 言われてみればフェイトも着付けのときも結構な力で絞められた記憶がある。でもこの浴衣を繋ぎ止めてるのはこれ一本なんだからちょっとやそっとで緩んでは大変なんだろう。

「浴衣がはだけちゃったらみっともないからいいんじゃないの?」
「せやなぁ……わたしも浴衣って始めてやもんなぁ」
「じゃあはやてちゃんも浴衣一年生なんだね。ふふ、フェイトちゃんとお揃いだ」

 おどけるすずかにはやてもフェイトも苦笑いだ。
 言われるようにこんな所で柔肌を晒すことになればそれはもう悲鳴を上げるくらいでは収まらないだろう。

「おいしいハプニングは好きな子を誘惑する切り札……ってとこなんじゃないの?」
「相手がいない人間に言われても説得力ないっちゅうねん」

 言わないでよ、とアリサはため息である。

(で……相手のいる人間はどうなの?)
(王子様はちゃんと呼び出しとる、今ヴィータの相手してもらっとる所や)
(じゃあ後は二人を引き合わせるだけだね)

 しょぼくれるアリサではあるが、その脳内では念話によって着々と作戦が進行していることを確認している。
 五人で祭りを楽しむのも程々に、やるべきことへなのはを除く全員が団結する。

(でもどうするの? この人ごみじゃ引き合わせられないんじゃ……)
(フェイトらしくないわね……逆境さえも利用するのが乙女の根性ってもんよ)

 内心ほくそ笑むアリサである。このシチュエーションだって既に予想の範疇だ。
 ちなみにアリサやすずかが念話を使いこなしていることに疑問を思うことなかれ。この日のために夏休みの宿題そっちのけで習得したのだ。まさに乙女に不可能はない。

「そんじゃ気ぃ取り直してお祭りめぐりと行こかー」
「うん! 今夜は楽しんじゃおう!」

 笑顔を咲かせるなのはの横目に四人は悟られないよう頷きあった。はやての号令は状況開始を知らせる狼煙である。

(……ええなユーノ君、そっから真っ直ぐ向かってくるんや! 真っ直ぐやで!!)
(あ、うん……)
(まだ答えも聞いてないくせに落ち込むんじゃないわよ! 男でしょ!!)
(そ、そうだね……)
(大丈夫、今のなのはちゃんならきっとうまく行くから)
(べ、別にここまでしなくても僕は……)
(ユーノ……なのはを幸せにしないと許さないから)
(…………)

 なだれ込む少女たちの剣幕に遠く離れたユーノも額に汗だ。
 女三人姦しい。女四人で姦しすぎる。ここまで応援されては退くに退けないのは誰にだって言えること。むしろ退いたら最後敗残兵に下される審判は碌なものではないだろう。
 ユーノに残された道は常に一つ。意を決し、ユーノは目の前で蠢く人波へ飛び込んだ。
 
「おっ、頑張ってこいよユーノ! 決闘は気合と根性だ!!」
「食いながら喋るな、行儀が悪いぞヴィータ」
「るせぇ、お前の格好の方が目の毒だっての。サラシあと十週巻いたって足りないんじゃねーか?」

 艶やかな紫色の浴衣に身を包むシグナムの胸は今宵もはち切れんばかりに隆起していた。
 それまさに男を殺す狂喜――いや凶器である。彼女が動くたびサラシと帯で締められてもなお揺れ動くそれに行き交う人は老若男女、皆視線を奪われている。
  
「ヴィータ……この浴衣という甲冑に感謝するんだな。もし私が騎士甲冑なら今頃おまえはレヴァンティンの錆だ」

 ベルカ人にとってもこの浴衣という衣装は始めての経験。それゆえフェイトよろしく独特の動きづらさと下駄の歩きがってに四苦八苦しているのだ。

「へっへーん! やっぱりそのおっぱいでバランス取れねーんじゃねーか? ほら、鬼さんこちら~!」
「ヴィータぁ!!」

 右手に焼きソバ、左手に焼きとうもろこしを持ちながらヴィータが楽しげに回る。彼女の緋色を引き立てるような真紅の浴衣も嬉しそうにはしゃいだ。

「まぁまぁ……今日はお祭りなんだから楽しまなきゃ」
「……そ、それもそうだな。こちらの文化を堪能するいい機会だしな」
 
 隣にシャマルに窘められてどうにか気を落ち着ける。
 若草色に身を包んだシャマルもシグナムと比べてしまえば劣るかもしれないがやはり豊満な肉体を惜しげもなく浴衣の形を変えていたり。
 うちわをヒラヒラさせればこれまさしく日本の美――降臨、浴衣美人。満を持して。

「焼きソバでも食べたらどう? これはこれで結構味があるわよ」
「そうだな……腹が減っては戦が出来ぬか」
「じゃあ……ザフィーラ」
「承知!!」

 威勢のいい掛け声が二人の後ろから響き渡った。
 燻し銀に光るヘラを両手に携え、鉄板の上で麺を躍らせるは我らがヴォルケンリッター盾の守護獣ザフィーラだ。
 筋骨隆々とした肉体をランニングシャツ一枚で押さえ込み、頭にはねじり鉢巻。これまた夏男そのものと化した大男は行き交う人々――主にご婦人の方々から黄色い声を戴いている。
 売り上げも上々、彼の肉体に光る汗を見ればそれがよくわかる。

「いいわねぇ……こういう雰囲気って」
「まったくだ」

 頷きあいながら丁度出来上がった焼きソバを口に運んだ。
 なるほど、確かに具はほとんどないし味も心なしか薄い。主の作るものに数段劣るはずなのになぜか美味く感じるのはこの祭りの雰囲気がなせる業か。
 おもしろいものだ――しみじみ感じながらシグナムはさらに焼きソバを頬張った。

(主……我らが出来る手助けここまでです。後は頼みます)
(よっしゃ! まかせとき!!)

 すっかり上機嫌なはやてと連絡を取りつつシグナムは改めてこの日常に生まれて来れた運命に感謝し、ちゃっぅかりおかわりをザフィーラに注文するのであった。
 
「じゃあ私たちも行こっか」
「そうね、早速お祭りを楽しみましょう」
「せやな、今までの分まで楽しむでー!」

 一方、こちらもテンションは最高潮。気色満面で祭りに意気込む三人だ。

「みんな楽しそうだね」
「お祭りもあるけどなのはのこともあるからね」
「えっ? どうしてわたし?」

 きょとんとするなのはにフェイトはゆっくり歩み寄ってそっと左手を握る。
 この喧騒にかき消されないようにそっと耳元でフェイトは囁く。

「あのね……想いがどうしても言葉で伝えられない時は行動で示したっていいと思うんだ」

 フェイトの言葉の意味が何を指すのかはすぐになのはには理解できた。途端、ユーノの顔を思い出し赤面してしまう。

「にゃ、にゃあ……」
「だから……頑張って」

 風のようにフェイトが駆け出す。
 小気味良い音を石畳に響かせて先行するアリサたちへ加わってすぐに談笑に笑顔を浮かべる。

「あっ……」

 ――行かなきゃ。

 早く自分もそこに加わってお祭りを楽しまないといけない。ここにいたらまた余計なことを考えてしまってそれどころじゃなくなるはずだから。
 だけどその一瞬の躊躇がなのはと四人の距離を広げてしまった。
 すぐに浴衣の群れに消える四人。慌てて追おうと一歩踏み出すなのは。

「きゃっ!」

 丁度すれ違う人にぶつかりよろける。その拍子に今度は自分が先ほどのフェイトのように下駄を引っ掛けてしまった。

「あっ!?」

 ぐらっと重心が後ろにずれ動き、尻餅一直線――

「おっと!」

 と思いきや、今度はなのはが誰かに受け止められた。
 
「あっ、すいません。ありがとうございます!」
「うん、怪我はないよね……なのは」
「えっ……あっ……」
 
 抱き留めてくれた人の声に思わずなのはは身を硬くしてしまった。
 跳ね上がるように身を離して恐る恐る向き直る。一番会いたくて、一番会いたくない人。その人が今目の前にいた。
 もちろん夢ではなく現実だ。

「ユーノ……くん」
「こんばんわ、なのは」

 あの告白してくれた日から変わりない穏やかな表情をユーノは浮かべそこにいた。彼もまた新緑に染まる浴衣に袖を通していた。
 一番大好きで裏切ってしまった人を前になのはの心に去来する思いは立った一つ。

「わたし……あの時は……ごめんなさ――」
「いいよ。いきなりだった僕も悪いんだしさ」
「で、でも」

 謝罪の言葉を遮ってばつが悪そうに笑って見せるユーノ。頬をかきつつなのはに非がないことを控えめに主張した。

「せっかくこうやって会えたんだからさ、お祭り案内してくれないかな?」
「え……?」

 偶然を装えとアリサたちには言われている。本当は正面からばったり出くわす手はずだけどどうやら人ごみに紛れてすれ違ってしまったようだ。
 ここに来れたのもなのはの魔力を辿ったから。なにはともあれユーノは皆の期待を裏切らずに済んで一安心しているところだ。

「僕もこの世界のお祭りって始めてだからね。あんまり良くわからないんだ。だからなのはにお願いしようかなって」
「いいの……?」
 
 うん、と頷くユーノ。 

「なのはじゃなきゃ駄目だから」

 心音が聞こえたかと思った。
 恋をするということがここまで心と体をおかしくしてしまう事を身をもって体感するなのはだ。もう、その一言で十分すぎる。自分のことを思い続けてくれるユーノに感無量。
 目頭が熱くなる。なんでこんな人が自分を好きになってくれたのだろうか。世界一の幸せものだとのなのはは思う。

「ゆー……のくん」
「ほら、お祭りはまだ始まったばかりだよ。行こう!」

 ちょっと強引にユーノはなのはの手を引いた。
 いつものユーノとは違う積極的な彼の態度に少し驚き、少し頼もしく思ってしまう。

「これだけの人ごみだからね。はぐれたら大変だし」

 握られた温もりが左手を満たすのを感じながらユーノの背中を見つめる。
 ちょっとなのはは気になった。

「それだけなの……?」
「ん?」 

 ようやく歩き始めた二人。今度はなのはがたどたどしい足取りでユーノに牽引されている。

「繋ぎたいから……なんて正直に言えないだろ?」
 
 雑踏に紛れてなのはに聞こえたのは断片的な言葉だったかもしれない。でも想いは伝わる。あまりに真っ直ぐなユーノの気持ちに歯痒くなりつつ、なのはも大きく頷いた。
 
「わたしも……繋ぎたい」
 
 影が寄り添う。バラバラだった下駄のリズムが一つに重なる。
 汗ばむことなんて二の次だ。今は彼を、ユーノを感じていたい。 

 離れないよう、流されないよう、痛いほどにぎゅっと――。

 もう手は離さない。

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