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2007.08/28(Tue)

守り手 10話 


【More・・・】


 音一つない静寂に包まれた暗闇。先の見えない回廊を僕は照明魔法を頼りに歩いていく。
 耳に聞こえる音は自分の息遣いだけ。時折、どこかで雫が弾ける音がするけど気を紛らわすのには心もとない。
 以前にこんな風な遺跡に入ったことがあったけど、あの時はトラップ等に気をつけていて見えるもの、聞こえるもの全てを疑って相当神経をすり減らしていた。
 そういう意味でそんな心配のないここのほうが少しはマシなんだろうけど……。

「このラボ、事故以来いろいろあって手付かずだったけどあまり目立った壊れ方はしていないのね」

 そういえば聞こえる音はもう一つあった。正確に言うと声だけど。
 僕のすぐ横、肩の高さぐらい所をふわふわと飛んでいるリンディさん。
 今は元の大きさよりずっと小さく背中の四枚の羽で風を捉えている。妖精――と言っても過言はない姿だ。
 まさかリンディさんがついてくるなんて全然考えていなかったけど、いてくれるととても心強い。

「でも驚きました。リンディさんがそんな高度な変身魔法を使えるなんて」
「曲がりなりにもアースラの艦長なんだからこれぐらいは出来ないとね」
「でも精神だけを切り離してそんな風にするなんて普通は出来ませんよ」

 実際、変身魔法のレベルは当に超えている。変身魔法はあくまで術者の体を変身させるだけ。精神を切り離して実体化、しかも変身させて活動させるなんて芸当は一流の魔導士でも難しいことだ。

「艦長の役職柄、艦を離れるわけにもいかないから。どうしようもない時はこうやってるのよ」
「便利ですね」
「そう? 確かに便利そうに見えるけど、この状態じゃ魔法も使えないのよ。体に戻るにも転送魔法を使わないといけないし。そうねぇ……喋る通信機みたいなものよ」
「ははは……」

 全く持ってすごい人だ。とんでもない魔法をそんな一言で一蹴してしまえるなんて。
 マイペースそうでいろんなことを考えてて、と思えばのほほんとしているだけだとか。
 僕の周りを飛び回りながら辺りの様子を探るリンディさん。不意にその動きが止まった。

「どうしたんですか?」
「ユーノ君、あれ」

 指差す方、闇が支配している所へ魔法の光がかすかに照らした。その光に反応して呻くような声とともに何かが動く。
 紛れもない、人がいた。
 慌てて駆け寄る。さっきよりも近い所で光に照らされて姿がより鮮明になる。砂埃に汚れた制服。壁に寄りかかったまま座り込み手には力なく握られたデバイス。先に行ったアースラの職員で間違いなかった。

「大丈夫? どうしたの、何があったの?」

 リンディさんの呼びかけにその人は反応しなかった。僕も様子を窺おうと屈んだ。
 光に照らされた顔に生気はない。顔面蒼白、言葉通りの状態。外傷は見当たらない、ただ気分が悪くなっただけなのだろうか。
 いやそんなはずはない。微かにわかる異変があった。多分リンディさんも気づいたのだろう。表情が少し強張っていた。

「リンディさん……これって」
「すぐに転送よ。このままだとまずいわ下手すれば命に関わる」
「はい、すぐに転送します」

 両手で印を結び転移魔法を発動させる。
 職員の下に魔法陣が広がり光が包みこむ。そして一際眩い光が放たれると共にその身はアースラへと転送された。

「後は医療班が頑張ってくれることを祈るだけね」
「はい」
「急ぎましょ、もし職員が全員こんな状態なら早く手を打たないと」

 言うより早くリンディさんが飛翔した。僕も続けて大地を蹴る。
 階段を降り、地下へと、この施設の最深部を僕たちは目指す。
 道中、最初と同じように職員の人を見つけては転送する。その数は最深部に行くに連れ増え、容態も危険な状態へと変わっていった。

「ユーノ君もわかってると思うけど、うちの職員に起こったこと、どう考える?」
「戦闘の後もないし、何かのトラップにかかった形跡もない。やっぱり第三者が何らかの手段で奪い取ったと思います」
「やはりそうなるわよね。はぁ、まさかとは思いたくないけど……魔力を吸い取るなんてね」

 そう、今まで転送した人はみんなあるべき魔力がほとんど残っていなかった。
 魔力は魔法を作り出す上で必要不可欠なもの。それを失えば当然魔法は使えなくなる。
 普通なら体力が限界になれば魔力だって空になる。魔力の源は命そのものだ。だから無理やりに吸い取れば術者の生命が危険に晒される。
 職員の人たちの身に何が起こったのかはわからない。ただ一つ言える確かなことは、僕が思っている以上に事態は深刻だということ。
 僕の前を先行しているリンディさんは一体何を考えているんだろうか。やはり部下を危険な目に合わせてしまった責任感だろうか。それとも事の原因そのもののについてか。

「気をつけてねユーノ君、もしかしたら私たちとんでもない所に来ちゃったのかもしれないわ」
「覚悟は出来てます。少し想像とは違ったけど……」

 思えばこの施設も一体何を研究していた場所なのか全然知らされていない。
 根本的な疑問が残っていた。

「リンディさん、そもそもここって何を研究してたんですか? もしかしたら魔力を吸い取られた人と関係があるんじゃ」
「関係ないわ……今のところね。本来ならここで研究されていたのは新世代型の次元航行炉なんだから」
「次元航行炉……?」

 どこかで、いや確かに聞いた言葉だった。
 記憶の糸を手繰り寄せてそれが何であったか、何を意味しているのか、僕は思い出そうとする。その先にある事実。それは忘れかけていたあの人物を呼び起こさせるには十分だった。
 偉大な、偉大すぎて禁忌に手を染め、次元の彼方に消えた魔導師。

「まさか……プレシア・テスタロッサ……」
「彼女が公式に行っていた最後の研究。事故により闇へと葬られた遺産……」

 リンディさんが止まった。
 見上げればそこに巨大な扉。だけどその半分は大きく吹き飛び崩れ落ちている。
 大きく口を空けた穴からはここが地下だというのに赤い光が這い出るように漏れていた。見るからに恐怖心を煽り、背中に冷たいものが走るような場所。
 怖気づきはしない。今まで遺跡発掘してきた身としては逆にこの雰囲気が好奇心を煽るものでしかない。
 だけどこれは何かが違う。高揚感も恐怖感も、不気味なほどに何も感じなかった。

「次元航行炉…………ヒュードラ……」
「きっと彼女が道を踏み外してしまった始まりの場所」
 
 それがここに――――ある。
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